理想の税理士制度
税務相談停止命令制度と無償独占の在り方を考える
本報告は、2025年9月に開催された税経新人会第60回全国研究集会において発表された「理想の税理士制度」から、筆者が担当した税務相談停止命令制度と税理士業務の無償独占のあり方について検討した部分を中心に報告させていただいたものとなります。以下その概要を報告させていただきます。
1.税務相談停止命令制度の創設と問題点
2023年の税制改正により、税理士法第54条の2として「税務相談停止命令制度」が新設されました。この制度は、税理士資格を持たない者が税務相談を行い、それが不正な課税逃れや還付につながる恐れがある場合、財務大臣が相談の停止を命じることができるというものです。また、国税庁長官には調査権限が与えられ、帳簿書類の検査なども可能となりました。 この制度は、財務大臣や国税庁長官の広範な裁量に基づくものであり、過去の民商弾圧のように自主申告運動や結社の自由を侵害する危険性を排除できないものとなっています。制度の立法趣旨は「偽税理士の排除」とされているが、対象範囲が広く、恣意的な運用の余地がある点が問題であると考えます。
2.税理士法の二面性と無償独占の背景
税理士法は、税理士の権利・義務を定める側面と、税理士という職域を守るための取締法としての側面を併せ持っています。税務相談停止命令制度は、取締法という側面にさらに偽税理士行為の疑いがある者を取り締まることを可能としており、他の士業には見られない税理士法固有の制度となっています。 この背景には、税理士業務が「無償独占」であるという特異性があると考えます。税理士法第52条では、税理士以外の者が税理士業務を行うことを禁じており、国税庁通達によりその業務は有償・無償を問わず 独占業務であるとされています。これは、税理士を行政の支援者として位置づけ、行政の監督下に置くための仕組みでもあると考えられます。
3.無償独占の限界と再考
無償独占そのものが制度として限界であることが明らかです。無償独占を維持すべきか、有償独占に移行すべきかについては議論が分かれています。 弁護士法では、報酬を得る目的で法律事務を行うことが禁止されているが、立法当初、「簡易な法律実務を低廉な費用で取り扱う善良な非弁護士の存在は、かえって社会の利益になる」との考えに基づいていたようです。無償での支援は社会の利益となる。税理士法も同様に、無償の税務支援が国民の利益につながると考えるべきであり、無償独占の見直しが必要であると考えます。
4.税務相談停止命令制度と無償独占の相関関係
税理士法が「誰のための法律」であるかを問い直すことで、理想の税理士制度の姿が見えてくるのではないでしょうか。 申告納税制度は、憲法第13条の自己決定権に基づく国民の権利であり、その維持には多様な税務援助が不可欠となります。しかし、その期待に応えるためには無償独占を堅持し続ける税理士だけでは不可能です。こうした点からも無償独占は国民の利益とは相反する。無償独占があるが故に、税務相談停止命令制度の必要性を課税庁へ与えることとなり、課税庁が税理士を管理監督するうえで無償独占が必要な道具となり税理士への「手かせ・足かせ」として機能している。 私見としては「無償独占」は国民(納税者)の利益に反することから不要であると考えます。有償独占とすることでボランティアによる税務援助が可能となり、憲法第21条が保障する結社の自由に基づく団体における「助け合い・教え合い」といった共助活動を弾圧するような根拠を与えることもなくなります。多くの納税者が申告納税制度下における自らの税額を確定させる権利(憲法第13条自己決定権)を行使することができることとなり、国民(納税者)の利益へと繋がります。無償であればボランティアでの税務援助が可能となることから、必 税理士登録者数(約8万人)に対し、申告件数は数千万件にのぼります。仮にすべての申告を税理士 が担うこととなれば単純計算で一人当たり340件程度となります。これは現実的に不可能であり、然的に第54条の2(税務相談停止命令制度)とその関連条項は必要性を失うこととなります。
結語
税理士の必要性についてはシャウプ勧告によれ ば「納税者の代理を立派に勤め」、「税務官吏をして 法律に従って行動することを助ける」ものとしてとらえ、適正な税務行政を行うために「納税者が税務官吏に対抗するのに税務官吏と同じ程度の精通度をもってしようとすれば、かかる専門家の一団の援助を得ることが必要である」と指摘しています。 より民主的な税務行政を確保するうえではシャウプ勧告に指摘される「納税者が税務官吏に対抗することを援助する専門家としての税理士」を担保するための税理士制度が必要であるとともに、納税者自身に納税者の権利が存在することを明示する納税者権利憲章の制定(明文化)が必要であると考えます。 「課税庁のための税理士法」「税理士のための税理士法」から「納税者のための税理士法」へと昇華させることこそが理想の税理士制度の構築へとつながるのではないでしょうか。
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