第67回「公開講座」 開催報告
「国税庁を 裸にする」
今回の主題は国税当局の動きを当局サイドの資料から読み解こうというものです。参加の呼びかけチラシには、「国税庁を裸にする」と少し踏み込んだ宣伝文句を載せました。 さて、講座では国税庁の姿を露わにひん剥き、受講者にさらすことはできたのでしょうか。 参加者から「当局資料を開示させ、それを提供するという取り組みはセンターならですね。1,800ページにも及ぶ開示資料から200ページを選び出すだけでも大変なことでしょう。よくこれだけの資料を提供してくれました。貴重ですよ。」との声をいただいております。 手前味噌かもしれませんが、宣伝文句にたがわない内容であったからこその声だと受け止めていいものと思います。
当局方針の全体像は
第1テーマの「令和5事務年度当局方針の 全体像」について、 佐々木隆夫会員(写真右)が講義を担当 しました。 当局は事務年度の 初頭に、税務署の行政 実働を担う現場指揮 官である統括官や特別調査官に対して、事務年度の方針を示す会議を開催しますが、そこで膨大な資料 を配布します。 センターが開示請求したところ、法人課税部門、個人課税部門、資産課税部門、徴収部門合わせて1,800ページに及ぶ量となりました。今回は徴収部門を除く課税3部門の調査に関係する部分をピックアップし、佐々木講師がそのポイントを解説しました。 課税部共通課題としては、消費税の不正還付阻止、海外取引、富裕層、無申告、新分野経済活動に対する適正課税を重点課題にして調査に臨んでいます。 さらに、調査選定をシステム的に行うことに切り替え、そのために法人税選定システム「結」、所得税選定システム「SAT」、資産税選定システム「RIN」を構築したことが明らかにされました。 法人の「結」の場合は、1,000項目にも及ぶ項目や各種のデータから納税者をリスクスコア評価による点数付けをして、高リスクスコアの法人から調査をするというのが当局の調査方針になっていると報告されました。初めて聞く人が多かったと思います。
税務調査での乱暴な調査は
佐々木講師は税務調査現場で生じている乱暴な調査が、当局による調査官の労務管理が背景にあることについて、当局資料から分析したところを解説しました。 ひとつは若手の調査官育成で、到達状況を露骨に点数評価して、「2点以下」の若手職員の育成に対策をとれとしていることを明かしました。 また、全署全部門が、増差税額や重加賦課割合等の数値でランク付けされ、猛烈なノルマ主義による尻たたきが行われていることも具体的資料から解明しました。これらの労務管理が、調査官の乱暴な調査に反映しているので、税理士はそうした行政を是正する使命を果たそうと訴えました。
DXで襲いかかる国税庁
ととして第2テーマを岡田俊明会員が担当しました。 当局資料を基に、税務行政のデジタル(次ページへ) (前ページより) 化と事業者に対するジタル化の推進も国税庁が担うとする新展開を詳細に解説しました。 令和8事務年度で、国税庁の基幹システムであるKSKシステムを全面更新し、KSKUにバージョンアップして運用するとしていることとあわせ、民間のシステムとも連携し、例えば銀行の預金照会をネットによりごく短時間に当局が手に入れるなど、これまでの紙ベースの行政がデータ中心の行政に転換するなかで展開されることを明らかにし、それらは監視強化につながることを警告しました。 行政のデジタル化は、国民の利便性に寄与する作用を織り込んでいますから、それは良しとして、しかし何らかの規制を措置しなければ危険な面があ ることを訴え、この点でも国税当局の動きと思惑を暴き出す貴重な講義となりました。
調査行政の動向解明はセンターの任務
参加者が56名とやや少ない印象ですが、税務当局と直接向き合う税理士にとって、国税当局の行政、とりわけ影響の大きい調査行政の方針が大きく変化していくここ数年の動向を具体的に解明することは、センターに与えられている重要な任務です。 来年もこのテーマによる公開講座を企画し、多数の参加を得て学習したいものです。 なお、開示資料をふんだんにのせた資料集は、他では見ることができない貴重な情報が満載となっており、公開講座に参加できなかった方はぜひ資料 集をお買い求めいただき、当局の動向を押さえていただければと思います。
(文・小田川豊作 会員) |